研究案内
周産期研究チームは、私たちが妊婦健康診査にて日常接する妊婦さんや胎児・新生児に認められた、先天性疾患の診断、原因遺伝子の解析、さらにその病態を解明し、将来の治療に繋げることを目標に種々の疾患を研究しています。特に胎児期に見つけられる骨系統疾患を中心に研究を進めています。 骨系統疾患は約460もの疾患が存在するといわれ、近年では新生児期の新しい治療方法の臨床応用への道が開発されるなど、疾患によっては有効な治療戦略が立てられる可能性が出てきています。しかしいまだ多くの疾患では、難治性で予後不良な経過をたどる事が多いのが現状です。診断および治療戦略を開発していくにあたっては、その発症疫学の正確な情報は不可欠です。私たちは国内数施設(1道6県)と共同で、骨系統疾患の発症頻度を算出するため前方視的コホート研究を開始しています。 また、私たちが経験する骨系統疾患に対して、3D-CTや4D超音波検査装置を駆使して、診断し、周産期管理を行い、積極的に遺伝子解析を行っています。
骨系統疾患ではこれまでタナトフォリック骨異形成症(1)、ブーメラン骨異形成症(2)の児における疾患原因遺伝子を同定しました。
骨系統疾患以外にも幅広い疾患を対象とした解析を行っています。慶応義塾大学、浜松医科大学と共同で行ったチトクロームP450オキシドレタクターゼ(POR)異常症症例や、出血性素因のある母体(血小板機能異常症)の家系に対し、次世代シークエンサーを用いた全エキソーム解析を行い、世界でも稀な家族性血小板異常症の家系を見つけ(3)、多発奇形を伴うVACTERL-H連合の遺伝子解析を行い、原因遺伝子のエクソンに欠失を同定する(4)など、幅広い疾患を対象とした解析を行っています。
(1)Prenatal diagnosis of thanatophoric dysplasia by 3-D helical computed tomography and genetic analysis.
Tsutsumi S, Sawai H, Nishimura G, Hayasaka K, Kurachi H.
Fetal Diagn Ther. 2008;24(4):420-4.
(2)A case of boomerang dysplasia with a novel causative mutation in filamin B: identification of typical imaging findings on ultrasonography and 3D-CT imaging.
Tsutsumi S, Maekawa A, Obata M, Morgan T, Robertson SP, Kurachi H.
Fetal Diagn Ther. 2012;32(3):216-20.
(3)Whole-exome sequencing confirmation of a novel heterozygous mutation in RUNX1 in a pregnant woman with platelet disorder.
Obata M, Tsutsumi S, Makino S, Takahashi K, Watanabe N, Yoshida T, Tamiya G, Kurachi H. Platelets. 2015;26:364-9
(4)X-linked VACTERL-H caused by detection of exon 3 in FANCB: A case report.
Watanabe N, Tsutsumi S, Miyano Y, Sato H, nagase S.
Congenit Anom. 2018;58:171-2
当科で行われている代表的な臨床研究としては以下のものがあります。
①「社会的ハイリスク妊婦に対する支援に関する研究」
生活保護受給者や精神疾患合併などといった社会的ハイリスク妊婦の支援について、未婚や家族の支援不足など様々な原因が考えられますが、中にはこどもへの虐待が懸念されるケースもあり、われわれ医療者や行政がどのように関わることによって有効な支援が行えるのか?をテーマに、山形市を含む地方自治体の担当者と面談を重ねながら、資料を収集し、調査項目の抽出を行い、解決策を模索しています。
②「妊婦における難治・治療抵抗性の抗リン脂質抗体症候群に対する大量免疫グロブリン療法についての前方視的臨床試験」
妊娠初期から中期にかけて複数回の流産・死産を繰り返したり、胎児の発育不全を生じる抗リン脂質抗体症候群の妊婦に対し、妊娠初期に大量の免疫グロブリンを投与することで周産期予後を改善することができるかどうかを多施設研究の一員として、臨床試験に取り組んでいます。
③「周産期における酸化ストレスに関する研究」
酸化ストレスとは、酸化反応によって引き起こされる生体にとって有害な反応で、妊娠中の胎盤においては絶え間なく酸化ストレスが発生して、活性酸素代謝が増加しています。それに対し、胎児胎盤循環系では豊富な抗酸化物質により酸化ストレスを押さえ込んでいます。しかし、このバランスが崩れ酸化ストレスが増加すると、自然流産、妊娠高血圧症候群、子宮内胎児発育不全、早産などの周産期合併症を招いてしまいます。私たちは、こういった周産期合併症を早期に覚知し、早期治療につなげることが目標とし、そのバイオマーカーとしての酸化ストレスを定量し、解析を行っています。