研究室紹介

研究内容

腫瘍

基礎研究

私達の研究室では、これまで卵巣癌における薬剤耐性化の克服を研究課題として、研究を行ってまいりました。卵巣癌の臨床上の問題点として、当初、抗がん薬に感受性を示しても再発が多く、再発時は化学療法に対して耐性を示し、治療困難となることがあります。我々は、薬剤耐性化の標的分子として特にシグナル伝達経路に着目し、抗癌剤が増殖シグナルである extracellular signal-regulated kinase(ERK)経路と、生存シグナルである phosphatidylinositol 3-kinase(PI-3 kinase)-Akt経路を活性化させること、これらの標的分子の活性を消失させる薬剤添加もしくは遺伝子導入で抗がん薬への耐性が解除され感受性を示すことを報告しました(Cancer Res 2000; J Biol Chem 2002, 2004; Clin Cancer Res 2004; Endocrinology 2006)。シグナル伝達経路の他にも抗がん薬排出機能 (Clin Cancer Res 2004)や血管新生因子(Semin Oncol 2002)などを標的とした研究が盛んに行われましたが、卵巣癌では臨床研究において血管新生因子を標的とした治療ではある程度の効果を認めたものの、分子標的治療薬の臨床効果は低く、当初期待していたほどの効果が得られていないのが現状です。そこで、現在、我々は卵巣癌おける再発と治療抵抗性獲得の機序として癌幹細胞に着目して研究を行っています。

癌幹細胞の概念は数十年以上も前から提唱されていましたが、直接的な証明方法がなく広く受け入れられることはありませんでした。しかし幹細胞生物学・発生生物学の急速な進展により、癌にもまた正常組織同様のヒエラルキーが存在し、その頂点に位置する癌幹細胞のみが強い自己複製能と腫瘍形成能を有することが明らかにされました(Reya T. Nature 2001)。癌幹細胞は癌を形成する細胞の数%以下の比率であると言われ、様々な抗癌剤や放射線療法にも抵抗性を示し、癌再発の原因となる細胞であると報告されています(Bao S. Nature 2006)。癌幹細胞の治療抵抗性は、癌幹細胞が抗癌剤排出能力、中和能力、DNA修復能力を有していること、また特別な微小環境(ニッチ)内で休眠状態として存在するため、増殖する細胞を標的とする従来の癌治療には効果がないためと考えられています(図1)。さらに、抗癌剤は増殖能力の高い癌細胞には効果があっても、増殖能力の低い癌幹細胞には効果がなく残存し、再度癌細胞に分化していくことで再発、抗癌剤に対する抵抗性を示すようになるのではないかと考えられています(図2)。したがって、卵巣癌の癌幹細胞を同定、機能解析を行い、癌幹細胞を標的とする新たな分子標的治療を開発することが再発を減らし、薬剤耐性化の克服にもつながり、卵巣癌患者の予後を著しく改善できるのではないかと考え、研究を行っています。

研究開始当初、私達は、山形大学医学部腫瘍分子医科学講座、北中千史先生との共同研究として、卵巣癌幹細胞の樹立に取り組みました。癌幹細胞の特徴のひとつに自己複製能があり、無血清培地において、癌幹細胞はdishに接着せずに浮遊して自己複製を行い、sphereという細胞集塊を形成します(図3)。これらのsphere形成細胞では、幹細胞マーカー(SOX2, NANOG, NESTIN, CD133)の発現を認めました。さらにこの自己複製能には、c-JUN N-terminal kinase (JNK) signalingが関与していることを明らかにしました(Seino M, Anticancer Res 2014)。今後は卵巣癌幹細胞の研究をさらに発展させ、癌幹細胞を標的とした新しい治療法を開発することで、卵巣癌の薬剤耐性化を克服し、再発予防につなげていければと考えております。

さらに私達の研究室では、医工連携研究として山形大学大学院理工学研究科バイオ化学工学(九州大学先導物質化学研究所)、田中賢先生との共同研究を行っています。ハニカム膜 (honey-comb film)とは、均一な多孔性膜であり、様々な生体親和性素材から作製することが可能です (Hollister SJ, et al. Nat. Mater 2005)(図4)。ハニカム膜は、3D porous scaffoldsとも言われ、細胞が接着、増殖していく上での足場となり、使用する生体素材と孔径によりハニカム膜上では、正常細胞は増殖が促進され、癌細胞では増殖が抑制されていることが報告されています (Tanaka M, et al. Biochim Biophys Acta 2011)。このハニカム膜の特性を生かし、現在胆管がんの胆道閉塞に対して、ハニカム膜を素材としたステントが開発されすでに臨床応用されています。卵巣癌の再発は腹腔内に播種性病変として発生することが多く、そのため初回可及的腫瘍減量手術後に腹腔内にハニカム膜を貼付することで、残存腫瘍の発育と浸潤・転移を抑制し再発を防ぐことができる可能性があると考えています。現在、in vitro, in vivoでハニカム膜が卵巣癌細胞の増殖を抑制するか、否かを検討中ですが、大変興味深い実験結果が出ており、将来の臨床での使用を目指して研究を継続していきたいと考えています。

臨床研究

私達の研究室では、臨床研究も行っております。単一施設の限られた症例数では臨床研究で成果をあげることは難しいのですが、患者さん一人ひとりのデータを丁寧に分析することで、臨床データを論文化することができると考えています。我々は閉経後の一般的な卵巣腫瘍患者において、実に44%(75例中33例)もの高率に血清エストラジオール(E2)濃度が高いことを見出しました。卵巣静脈採血を行って卵巣静脈血のE2濃度を測定したところ、健側の卵巣静脈に比較して患側の卵巣静脈中のE2濃度が有意に高く、また免疫染色により卵巣腫瘍間質に性ホルモン合成酵素の発現を認めたことから、極めて高頻度に卵巣腫瘍の間質でE2が産生されていること、さらに産生されたE2が骨代謝に影響を与えていることを明らかにしました(Matsumura S, J Clin Endocrinol Metab 2013)。この研究は、日々の臨床の中で疑問に思ったことから始まり、若手医師がまとめた研究です。これからも特に若手医師が疑問に思ったことを積極的に臨床研究につなげていければと考えています。
さらに私達は、婦人科悪性腫瘍研究機構(JGOG)や東北婦人科腫瘍研究会(TGCU)が主体となって行われる多施設共同研究にも積極的に参加しています。多施設での研究は豊富な症例数により、婦人科腫瘍における疑問点を解決し、新しい標準治療法を確立できる可能性があります。そのため私達は、研究に参加するにあたり、qualityの高いデータを提供するように心がけています。また私達からも新規臨床試験のアイデアを発信できるようになりたいと、カンファレンスで日常診療の疑問点をdiscussionしております。
最後に私達の研究室では、永瀬先生を中心として卵巣癌のほかに子宮体癌、子宮頸癌の新規研究も立ち上げようとしています。厳しいなかにも笑いあり、アットホームな環境です。産婦人科でがんの研究をしたいと考えている学生さん、若手医師が、私達の仲間となってくれることを期待しています。

周産期

基礎研究

周産期研究チームは、私たちが妊婦健康診査にて日常接する妊婦さんや胎児・新生児に認められた、先天性疾患の診断、原因遺伝子の解析、さらにその病態を解明し、将来の治療に繋げることを目標に種々の疾患を研究しています。特に胎児期に見つけられる骨系統疾患を中心に研究を進めています。
骨系統疾患は約460もの疾患が存在するといわれ、近年では新生児期の新しい治療方法の臨床応用への道が開発されるなど、疾患によっては有効な治療戦略が立てられる可能性が出てきています。しかしいまだ多くの疾患では、難治性で予後不良な経過をたどる事が多いのが現状です。診断および治療戦略を開発していくにあたっては、その発症疫学の正確な情報は不可欠です。私たちは国内数施設(1道6県)と共同で、骨系統疾患の発症頻度を算出するため前方視的コホート研究を開始しています。
また、私たちが経験する骨系統疾患に対して、3D-CTや4D超音波検査装置を駆使して、診断し、周産期管理を行い、積極的に遺伝子解析を行っています。
骨系統疾患ではこれまでタナトフォリック骨異形成症(1)、ブーメラン骨異形成症(2)の児における疾患原因遺伝子を同定しました。
骨系統疾患以外にも幅広い疾患を対象とした解析を行っています。慶応義塾大学、浜松医科大学と共同で行ったチトクロームP450オキシドレタクターゼ(POR)異常症症例や、出血性素因のある母体(血小板機能異常症)の家系に対し、次世代シークエンサーを用いた全エキソーム解析を行い、世界でも稀な家族性血小板異常症の家系を見つけるなど(3)、幅広い疾患を対象とした解析を行っています。

【参考文献】
(1) Prenatal diagnosis of thanatophoric dysplasia by 3-D helical computed tomography and genetic analysis.
Tsutsumi S, Sawai H, Nishimura G, Hayasaka K, Kurachi H.
Fetal Diagn Ther. 2008;24(4):420-4.
(2) A case of boomerang dysplasia with a novel causative mutation in filamin B: identification of typical imaging findings on ultrasonography and 3D-CT imaging.
Tsutsumi S, Maekawa A, Obata M, Morgan T, Robertson SP, Kurachi H.
Fetal Diagn Ther. 2012;32(3):216-20.
(3)Whole-exome sequencing confirmation of a novel heterozygous mutation in RUNX1 in a pregnant woman with platelet disorder.
Obata M, Tsutsumi S, Makino S, Takahashi K, Watanabe N, Yoshida T, Tamiya G, Kurachi H. Platelets. 2014 May 22:1-6. [Epub ahead of print]

臨床研究

当院の産科は三次医療施設としてハイリスクの妊産婦・新生児への高度医療の提供や24時間体制の周産期救急医療を担う。出産時に厳重な管理が必要な症例や、県内で発生した産科危機的出血など、周産期救急の症例を豊富なマンパワーで受け入れ、他科との連携で高度集中医療による妊産婦の救命を行っている。診療科が広く備わっている大学病院の特性上、様々な合併症を持った妊娠症例が当院に多くご紹介いただくため、常に他科との連携を密に保っており、特にリスクが高く分娩時の対応など十分な検討が症例に関しては合同のカンファレンスを組んで出産に備えている。
また小児科や小児外科や心臓外科、脳外科、形成外科、歯科口腔外科などと協力し、胎児奇形や早産児の受け入れを積極的に行っている。胎児の出生前診断や出生後の治療の必要な症例を平素より多くご紹介いただいており、胎児超音波や3DCT、染色体検査などを用いた出生前診断を行っている。その中には診断の困難な珍しい症例も含まれ、国内の専門家と情報交換を行って診断を行っている。
胎児が重度の疾患を抱えている場合は小児科など他科の医師や助産師、NICU、ケースワーカー、自治体の担当者などとチームを組み、出生前、出生後の情報提供や両親の心のケアを積極的に行っている。

主な研修内容:
前述のように県内の母体・胎児の珍しい疾患、リスクの高い疾患が集中して紹介されてくるため、そのような症例の管理や診断を多く学ぶことができる。新生児科とのカンファレンスは週に1度開催しており、ハイリスク妊娠の管理や分娩後の症例の検討を行っている。出生前診断やカウンセリングを行うためのスクリーニング外来を開設しており、研修のための充実した勉強の場ともなっている。
周産期に関わる臨床遺伝学を習得し出生前診断やカウンセリングなどに貢献できるよう研修を行っている。院内の専門家で構成された遺伝カンファレンスに参加し、周産期領域以外の遺伝性疾患に関しても勉強できる環境となっている。また、大学病院ならではの母体・胎児の合併症や高度な周産期医療を経験し、産婦人科専門医に引き続き、周産期専門医や遺伝専門医などのサブスペシャリティを取得できるように指導している。胎児蘇生法やALSO(Advanced Life Support in Obstetrics)を積極的に取り入れており、日々更新される新しいエビデンスを取り入れた産科危機への対策方法を体系的に学べる環境を提供している。

不妊症・生殖内分泌

基礎研究

1.卵の老化のメカニズム解明に関する研究
近年、女性の平均初婚年齢の上昇に伴い挙児を希望する女性の年齢も上昇しています。挙児希望、不妊症でassisted reproductive technology(ART)による治療を受けられる方々も年々増加していますが、我が国のART成績統計を見ても、35歳以上の女性では、妊娠率が年齢とともに低下しており、ARTによっても、加齢に伴う妊孕性の低下を改善させることは困難であることがわかります。加齢による妊孕性低下の原因は、主に卵巣の加齢、すなわち卵胞数の低下と卵子の質の低下であると考えられています。そこで私達は加齢による卵の質の低下の原因を解明するため、卵の加齢のメカニズムの研究を行っています。
マウスを使った実験モデルを作成し、加齢により体外受精率、胚発育が悪化することを確認しました(1)。私達は、細胞内のカルシウムイオンの制御機構に着目し、受精時に起こるカルシウムオシレーションが加齢により変化することを明らかにしました(2)。また、卵の加齢により、小胞体へのカルシウムの取り込み、IP3受容体を介したカルシウム放出、カルシウムストアの低下が起こっていることを明らかにしました(3,4)。更に加齢卵ではATP産生が低下していること(5)、ミトコンドリアにおいて活性酸素の発生による酸化ストレスが起きていることが明らかになり(1)、これが、細胞内のカルシウム制御機構の異常と、カルシウムオシレーションの変化および胚発育の悪化に関与していると考えられました。さらに卵の加齢のメカニズムを解明すべく研究を続けています。

2.クエン酸クロミフェンの子宮内膜に対する分子機構に関する研究
クエン酸クロミフェン(CC)は排卵障害に対する第一選択薬として広く利用されております。CC治療による排卵率は良好で、80%に及びますが、妊娠率は約20~30%と低値にとどまることが知られています。その原因は、CCの、子宮内膜および子宮頸管粘液に対する抗エストロゲン作用と考えられています。CCの抗エストロゲン作用のメカニズムとして、①CCがエストロゲンレセプター(ER)に対しエストロゲン(E2)を拮抗阻害すること、②CCによりERの数が減少すること、などが考えられてきましたが、これまで、詳細な分子機構は明らかにされていませんでした。私達は、子宮内膜上皮細胞において、CCがエストロゲンレセプター(ER)とsteroid receptor coactivator 1(SRC-1)との複合体形成を阻害することにより、エストロゲンによるERを介した子宮内膜増殖作用を抑制することを報告しました(6)。さらに、私達はCCが子宮内膜上皮細胞においてERを分解させERの数を減少させるメカニズムについての研究を行っています。

臨床研究

タイミング指導に始まり、人工授精までの一般不妊治療から、体外受精、顕微授精(ICSI)、胚凍結・融解のARTまで行います。年間約200周期の採卵を行っています。2015年1月より外来改修に伴い、ARTの培養室と採卵室も新しくなりました。当院では、日本生殖医学会生殖医療専門医2名の指導のもと生殖医療専攻医としての研修と、生殖専門医試験の受験資格の習得が可能です。卵のハンドリングからICSIまで指導医、胚培養士と共に行うため、幅広い知識と技術習得が可能な、充実した研修体制をとっています。


1. Takahashi, T., Takahashi, E., Igarashi, H., Tezuka, N., and Kurachi, H. (2003) Impact of oxidative stress in aged mouse oocytes on calcium oscillations at fertilization. Molecular reproduction and development 66, 143-152
2. Igarashi, H., Takahashi, E., Hiroi, M., and Doi, K. (1997) Aging-related changes in calcium oscillations in fertilized mouse oocytes. Molecular reproduction and development 48, 383-390
3. Takahashi, T., Saito, H., Hiroi, M., Doi, K., and Takahashi, E. (2000) Effects of aging on inositol 1,4,5-triphosphate-induced Ca(2+) release in unfertilized mouse oocytes. Molecular reproduction and development 55, 299-306
4. Takahashi, T., Igarashi, H., Kawagoe, J., Amita, M., Hara, S., and Kurachi, H. (2009) Poor embryo development in mouse oocytes aged in vitro is associated with impaired calcium homeostasis. Biology of reproduction 80, 493-502
5. Igarashi, H., Takahashi, T., Takahashi, E., Tezuka, N., Nakahara, K., Takahashi, K., and Kurachi, H. (2005) Aged mouse oocytes fail to readjust intracellular adenosine triphosphates at fertilization. Biology of reproduction 72, 1256-1261
6. Amita, M., Takahashi, T., Tsutsumi, S., Ohta, T., Takata, K., Henmi, N., Hara, S., Igarashi, H., Takahashi, K., and Kurachi, H. (2010) Molecular mechanism of the inhibition of estradiol-induced endometrial epithelial cell proliferation by clomiphene citrate. Endocrinology 151, 394-405
7. Takahashi, T., Morrow, J. D., Wang, H., and Dey, S. K. (2006) Cyclooxygenase-2-derived prostaglandin E(2) directs oocyte maturation by differentially influencing multiple signaling pathways. The Journal of biological chemistry 281, 37117-37129
8. Igarashi, H., Knott, J. G., Schultz, R. M., and Williams, C. J. (2007) Alterations of PLCbeta1 in mouse eggs change calcium oscillatory behavior following fertilization. Developmental biology 312, 321-330
9. Kawagoe, J., Li, Q., Mussi, P., Liao, L., Lydon, J. P., DeMayo, F. J., and Xu, J. (2012) Nuclear receptor coactivator-6 attenuates uterine estrogen sensitivity to permit embryo implantation. Developmental cell 23, 858-865
10. Amita, M., Adachi, K., Alexenko, A. P., Sinha, S., Schust, D. J., Schulz, L. C., Roberts, R. M., and Ezashi, T. (2013) Complete and unidirectional conversion of human embryonic stem cells to trophoblast by BMP4. Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America 110, E1212-1221

女性医学

基礎研究

女性ヘルスケア研究チームは2000年に赴任された先代教授の倉智博久先生が立ち上げられたものです。「エストロゲンとSERMの血管および神経保護作用の分子機構」のテーマのもと、研究が始まりました。2001年にチームリーダーである高橋が東北大から大阪大学医学部産婦人科・内分泌研究室に移動し、現大阪医科大学産婦人科学教室教授大道正英先生の指導のもと、現在の研究が始動しました。2002年には、大道先生と高橋が山形大学勤務となり、さらに研究が活性化しました。
我々は「エストロゲン」が生殖器以外に及ぼす影響について研究しています。エストロゲンの減少は骨粗鬆症の原因になることは知られていますが、骨以外にもエストロゲンには血管や神経の保護作用もあります。エストロゲンの減少する閉経後はメタボリック症候群の基盤病態のひとつである内臓脂肪蓄積が増加します。最近はエストロゲンの減少がもたらす脂肪細胞の機能解析を行っています。

1.血管内皮細胞における作用と機序
(1) ラロキシフェンはエストロゲンと同様に血管内皮細胞増殖作用を示し、AktおよびERK経路を活性化するとともに、一酸化窒素(NO)合成酵素であるeNOSをリン酸化することを明らかにした(J Biol Chem. 2001)。
(2) ヒト臍帯静脈血管内皮細胞(HUVEC)におけるエストロゲンのNO産生促進作用をMPAは阻害するが (Biochem Biophys Res Commun. 2004)、DNGは阻害しないことを明らかにした(Menopause 2010)。またMPAの阻害作用はグルココルチコイド受容体を介する可能性を示した(Fertil Steril. 2011)。
(3) ラロキシフェンは、telomerase活性化およびhuman telomerase reverse transcriptase (hTERT) mRNAの発現を促進することで、血管内皮細胞の増殖を促進することを明らかにした(J Biol Chem 2006)。
2.血管平滑筋細胞における作用と機序
エストロゲンとラロキシフェンは平滑筋細胞に対し、細胞周期の進行を抑制し、また、p38経路を介してアポトーシスを誘導することで、血管平滑筋細胞の増殖を抑制することを明らかにした(J Endocrinol 2003;178:319, J Endocrinol. 2003;178:417)。
3.血管内皮細胞と血管平滑筋細胞への作用の違い
   エストロゲン、ラロキシフェンは血管内皮細胞の増殖を促進し、一方血管平滑筋細胞の異常増殖を抑制する。増殖に関与する遺伝子のプロモーター領域に、内皮細胞ではコアクチベーターAIB1をリクルートするのに対し、平滑筋細胞ではAIB1をリリースするとともにコリプレッサーであるNcoRをリクルートすることを明らかにした(Endocrinology. 2007)。
4.神経保護的作用
  エストロゲンが神経細胞においてERαを介してPI3-kinase/Aktカスケードを活性化し、アミロイドβによる神経細胞のアポトーシスを阻害するとことを明らかにした(J Endocrinol 2004)。またエストロゲンは、Estrogen→ER→PI3-k/Akt→Rac1、cdc42の活性化→RhoAの不活化という経路を介し、最終的にneurite outgrowth(神経突起伸長)に関与することを明らかにした。

5.内臓脂肪蓄積とその機能
閉経女性の内臓脂肪組織では、11β-hydroxysteroid dehydrogenase (HSD) 1 mRNAの発現が有意に高値であること(図2)、cortisol/cortisone比が有意に増加していることを初めて明らかにした。また閉経後の内臓脂肪では、BMIの増加に伴い生理活性の低いE1が優位になるため、局所の脂肪蓄積に関与するグルココルチコイド活性化が高くなる可能性が想定された(図3)(Menopause 2013)。

閉経群の内臓脂肪で、脂肪酸の代謝産物である中鎖脂肪酸が有経群に比較して高濃度に存在することを、メタボローム解析により初めて明らかにした(図4)。閉経後の内臓脂肪では、脂肪酸代謝に変化がおき、これがメタボリック症候群の発症に関与する可能性が示唆された (Menopause 2014)。

臨床研究

臨床研究として、有経女性における卵巣摘出術が身体に及ぼす影響を経時的に追跡するサージカルメノポーズスタディを2007年から行っています。患者さんの健康を追跡する地味な研究ではありますが、非常に貴重なデータが集まっています。また、我々の臨床研究から端を発したと言っても過言ではない、日本産科婦人科学会女性ヘルスケア委員会で行っている「本邦における婦人科術後患者の健康と予後に関する疫学研究: JPOPS)」の登録センターとしても携わっております。外来はナイスミディ外来(木曜日・午前)を担当しています。女性医学学会の女性ヘルスケア専門医が診察しています。一般的な更年期医療に加えて、サージカルメノポーズの方の健康管理を行っています。動脈硬化症の形態、機能評価として総頸動脈内膜中膜複合体厚(intima-media thickness: IMT)、脈波伝播速度(pulse wave velocity)の計測も行っています。第2、第4木曜日は女性耳鼻科医師とともに更年期女性におけるめまいの診察と治療も行っています。手術で入院する患者さんに対して、JPOPS研究への参加をお願いしています。
研究内容の概要:
最近はエストロゲンと脂肪組織における酸化ストレスについて研究しています。肥満の内臓脂肪組織では、活性酸素種(ROS)産生酵素であるNADPH oxidaseの発現が増加する一方、 SOD (superoxide dismutase)、glutathione peroxidase (GPx)、catalaseなどの抗酸化酵素の発現が低下することにより、ROS産生が相対的に増加し酸化ストレスが亢進します。この酸化ストレスの亢進はストレス応答シグナルであるJNK、NF-κBの活性化を介してアディポサイトカインの分泌過剰をまねき、メタボリックシンドロームを引き起こすことが知られています。女性は閉経後に、メタボリックシンドロームの原因となる内臓脂肪の蓄積が促進します。また、エストロゲンは抗酸化作用を有することが知られており、エストロゲンが欠乏する閉経後は酸化ストレスが亢進した状態と推察されます (図1)。現在まで内臓脂肪の酸化ストレス亢進とエストロゲンとの関係は明らかにされていないので、いま研究中です。

1.内因性エストロゲンおよびHRTが血管機能に与える作用
(1) 子宮全摘出時に両側卵巣を摘出すると、血管内皮機能が術後わずか1週間で有意に低下したが、温存群では変化しないことを明らかにし(Maturitas 2003)、さらに、卵巣摘出術後にエストロゲン、ラロキシフェンを使用すると、血管内皮機能が悪化することを予防することを明らかにした(Menopause 2007)。エストロゲンにMPAを併用するとエストロゲンの血管内皮機能の改善作用が阻害されるが、選択的プロゲステロン受容体アゴニストであるジエノゲスト(DNG)を併用した場合は血管内皮機能改善作用が阻害されないことを明らかにした(Menopause 2010)。 
(2) 有経女性に見られる年齢依存的な脈波伝播速度(PWV)の増加に比較して、閉経後女性の年齢依存的なPWVの増加は加速していることが明らかにした(Gynecol Obstet Invest 2005)。 
(3) 総頸動脈の内膜中膜複合体厚(IMT)は年齢とともに増加するが、HRTを2年以上使用すると、年齢とIMT値には正の相関を認められなくなった(Maturitas 2004)。
(4) 両側卵巣摘出術を施行すると、手術後の6か月から、LDLコレステロールが増加し、術後1年間の骨量減少率は自然閉経に比較し2倍以上であった(Climacteric 2011)。

留学報告

氏名 卒業大学 留学先 留学期間
網田 光善 山形大学 2002年卒 University Missouri(Michael Roberts lobo) 2011.7-2013.6
太田 剛 山形大学 2000年卒 Mayo Clinic 2009.7-2011.6
川越 淳 山形大学 2000年卒 Baylor College of Medicine (Jianming Xu Labo) 2007.8-2015.3
五十嵐 秀樹 山形大学 1993年卒 University of Pennsylvania (Richard Shultz Labo) 2006.2-2007.6
高橋 俊文 山形大学 1990年卒 Vanderbilt University (SK Dey Labo) 2004.2-2006.1
堤 誠司 山形大学 1990年卒 Tufts Medical center, Boston (Mendelsohn labo) 2002.7-2004.7